組織におけるデータ戦略と実践(2): ユースケースを特定する
データ戦略を議論する上で、「AI」「ビッグデータ」といった流行だけを追いかけていては意味がありません。以下では、データ戦略を構築する上で必要なポイントについて、ユースケースの特定を中心に解説します。
(参考元: Atwal, Harvinder “Chapter 2. 2. Data Strategy.” In Practical DataOps: Delivering Agile Data Science at Scale, edited by Atwal, Harvinder. Isleworth, UK: APRESS, 2020.)
目次
なぜユースケースの特定が重要か
データ戦略を価値あるものにするためには、企業のミッション、ビジョン、戦略、KPIが一貫していなければなりません。組織の目標は通常、ミッションからビジョン、財務目標、部門目標、チームの具体的な目標へと連鎖していきます。データ戦略に取り組むうえで、まずハイレベルなテーマを明確にすることが重要で、その上で、具体的なデータのユースケースを詰めていく必要があります。
潜在的な分析ユースケースに対して、複数のデータ分析の選択肢を準備することは、データ戦略に沿った変更を行う目的を正しく理解すると同時に、データ戦略が当初の目的に合致しているかを確認するために重要となります。
将来どのような場面でどのような分析が必要になるかについて、組織はその全てを知ることはできません。しかし、現実的なユースケースをできる限り網羅する必要があります。
この段階では、分析の精度よりも、どれだけの量の分析の選択肢がカバーされているかが重要となります。
- 参考記事:データドリブンな組織と活用戦略
ユースケース分析における主要な4タイプ
ユースケースの特定とは、どのようなものでしょうか。例えば、新製品の開発、顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)の向上、業務効率の改善、データパブリッシング(データの収益化を含む)が挙げられます。
これらの4つのタイプについて、事例を交えつつ解説します。
新製品の開発
デジタルツインとは、物理的な資産、プロセス、システム、環境などをもとに、仮想世界でそれを再現する技術を指します。この仮想の電子的な「双子」は、実世界の対応するものと外観や動作が同じです。デジタルツインは、データを取り込み、プロセスを複製することで、現実の製品が受ける可能性のあるパフォーマンス結果や問題を予測することができます。
デジタルツインは、エンジニアが発売前の製品の実現可能性をテストするのに役立ちます。テスト結果に応じて、エンジニアは生産を開始したり、実現可能な製品を作ることに焦点を移したりします。
顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)の向上
Adobe社は顧客データのプラットフォームを構築し、取引、行動、人口統計などさまざまなソースからリアルタイムでデータを収集し、正規化することで、個人を1つに絞ったビューを提供します。取引、行動、人口統計など、さまざまなソースからリアルタイムにデータを収集し、個人を特定した単一のビューを提供します。
運用効率の向上
運用効率の向上では様々な事例がありますが、IIoT(Industrial Internet of Things)は、データの最適な活用の一つの事例といえます。今日のプロセスに関わる産業では、運用コストの面だけでなく、生産工場の可用性、安全性、セキュリティに関する要件が継続的に求められています。工場のプロセスの状態を安全に監視し、問題が発生する前に異常を特定することにより、コスト高となるプラントのダウンタイムを回避するための対策を、予防的に導入することができます。
データの収益化を含むデータの公開
Snowflack社では、データを活用した収益化に際して、APIベースのアプローチでなく、Snowflakeマーケットプレイスのような最新のデータ共有方法の導入を推奨しています。
APIベースのアプローチの課題として、アクセス可能なデータ量の制限、API開発・メンテナンスのための社内リソースの確保、データ利用者が使用できる分析の種類の制限、等が挙げられます。
Snowflakeマーケットプレイスでは、気象情報、医療情報等のデータ分析の売買を可能にしています。
データ分析の4つの手法
データ分析においては、主に記述的分析、診断的分析、予想的分析、処方的分析の4つの手法があります。
この分析方法の違いについて説明し、この分析方法とユースケースを組み合わせることで、より高いレベルでのデータ分析ならびにデータ分析におけるオプションの準備が可能となります。結果、それらがデータ戦略の構築に寄与します。
以下、4つの手法について具体的に説明します。
記述的分析
記述的分析とは、データを集計して表やレポートを作成し、過去の行動パターンに関する情報を生成する分析です。
記述的分析は、分析の中で最もシンプルなタイプであり、他のタイプの分析の基礎となるものです。生データからトレンドを抽出し、何が起こったのか、あるいは現在起こっているのかを簡潔に説明することができます。記述的分析は、「何が起こったのか」という問いに答えるものです。
チャートやグラフ、地図は、データのトレンドや落ち込み、高騰を明確かつ容易に理解できるため、データの可視化は記述的分析のコミュニケーションに自然に適合します。
診断的分析
診断的分析とは、データのパターンと関係を見つけ出し、ある行動がなぜ起こるのかについての洞察を得ることができます。
診断分析では、「なぜこのようなことが起こったのか」という論理的な問いに取り組みます。さらに一歩踏み込んだ分析として、共存する傾向や動きを比較し、変数間の相関関係を明らかにし、可能であれば因果関係を特定することも含まれます。診断的分析は、組織の問題の根本を突き止めるのに有効です。
予測的分析
予測的分析とは、顧客や取引が最終的にどのような利益・損失になるかその可能性を判断する分析です。
予測分析は、将来のトレンドや出来事について予測するために使用され、「将来何が起こるか?」という質問に答えるものです。
過去のデータを業界のトレンドと合わせて分析することで、自社にとって将来何が起こりうるかについて、十分な情報を得た上で予測することができます。未来予測をすることで、可能性のあるシナリオを想定し、戦略を練ることができます。
処方的分析
処方的分析とは、課題に対する最適な決定を推奨する、「次に何をすべきか」という問いに答える分析です。
処方的分析では、シナリオで考えられるすべての要素を考慮し、実行可能な対策を提案します。このタイプの分析は、データ駆動型の意思決定を行う際に特に役立ちます。
まとめ
データ戦略の実践において、ユースケースの特定が重要であることについて説明しました。データ戦略を実践する上で、企業のミッション等のハイレベルな議論が重要ですが、それを前提としてユースケースをできるだけ多く、どう特定していくかが課題になると想定されます。
弊社で提供するクラウド型のETLツールの「Reckoner」は、プログラミングが不要、GUI上ですべてを完結できるため、データフローの構築をスムーズに実現できます。
現在Reckonerでは無料トライアルを受け付けているため、今後ETLを新たに導入を検討される企業様はぜひご参考ください。
また、ETLツールについて詳しく知りたい、ETLツールの選び方を知りたいという方はこちらの「ETLツールとは?選び方やメリットを解説」をぜひご覧ください。